つれづれ
地域と環境のつながりを掘り起こす
「長野環境人士」を好評連載中、『エコなお家が横につながる』著者の小林さん
「財産区の活動って地域を守ることなんですね」。長野県・蓼科高原の白樺湖畔で小林光さんが柏原財産区(茅野市)の篠原権蔵・元総代ににこやかに話しかけた。財産区とは地区の資産を管理する特別地方公共団体で、柏原財産区は廃屋となったホテルを解体したり、霧ヶ峰草原の維持活動に取り組んでもいる。取材の小林さんは元環境事務次官で、茅野市内の環境住宅「金山デッキ」での暮らしを楽しんでいる。小林さんが地元紙の「長野日報」(本社・諏訪市)で連載している「長野環境人士―自然に優しく、暮らしを楽しく」が大きな話題になっていると聞いて、取材の様子を取材した。
篠原さんは「以前は毎年4月に草原で火入れ(野焼き)をしていた。財産区民100人ほどが草原の尾根に上るなどして帯状に燃やしていて、春の風物詩にもなっていた。高齢化が進むなどで、作業が危険なために2019年にやめた」と残念そうな表情を見せた。それでも「伸びてくる樹木は伐採して草原の景観は守りたい」と意欲を見せる。二人の対談の写真を撮っているのは、長野日報社茅野総局の野村知秀記者だ。
環境省官僚時代に“隗(かい)から始めよ”で都内の自宅をエコハウスとした小林さんは、もっと本格的にと、茅野市内にエネルギー供給住宅「金山デッキ」を21年暮れに完成、2拠点生活を送っている。地元での講演に感銘を受けた野村記者が、金山デッキを訪れて話しているうちに「環境に良いことを楽しみながらやっている人を掘り起こそう」と企画がスタートした。1面に写真付きで出し、中面のほぼ1ページをあてる大型企画だ。
第1回(23年6月15日掲載)の対談相手は、沖野外輝夫・諏訪湖クラブ会長(信州大学名誉教授)。諏訪湖の水質浄化について語ってもらった。
10回目は、諏訪湖の御渡り(御神渡り)をつかさどる八剱(やつるぎ)神社の宮坂清宮司(24年1月24日掲載)。同神社は、室町時代の1443年から諏訪湖の結氷や御神渡りの出現、それが起きなかった「明けの海」といった結果を途切れることなく記録している。それによると以前は50年に1回程度だった「明けの海」が1989年(平成元年)から2023年の間に26回も出現した。氏子総代とともに寒の入りから毎朝、湖畔で観察している宮坂宮司は「日本人は昔から自然と密接にかかわりながら生きてきた。自然の異常が生活の異常につながることをよく理解していた」と話してくれた。
これまでに登場したのは、無農薬栽培に取り組む農園主、キノコの専門家、古材・古道具販売業者、ライチョウ会議議長、信州大学地域防災減災センター特任教授、天竜川漁協組合長ら多士済々だ。そして、20回目が柏原財産区の篠原さんだった。小林さんは「地元にこんなにも面白い人たちがいるのかと驚いている。未掲載の30人近い人をリストアップしており、さらに掲載を続けたい」と話している。
小林さん著の『エネルギー使いの主人公になる① エコなお家が横につながる』(海象社刊)は21年6月発行、A5判140ページ、定価1000円(税別)