つれづれ
文化を考え、「文化財サポーターズ」に期待! 『学校文化の源流を探る』著者・森田さんに聞く
『学校文化の源流を探る』(海象社刊)には“学校文化の源”として数々の文化財が登場します。岡山県の閑谷(しずたに)学校(講堂が国宝)、長野県松本市の国宝・開智学校、国の重要文化財に指定された水戸市の藩校・弘道館、金沢市の旧制四高、東京大学の赤門、国史跡の栃木県の足利学校、大阪の適塾跡—―などです。重要無形文化財になっている能や歌舞伎も学校文化に影響を与えてきました。こうした貴重な文化財を守るための官民共創支援事業「文化財サポーターズ」が2024年3月にスタートしたのですが、まだ十分に知られていないのが現状です。著者で、文化庁(京都)次長の森田正信さんに「文化を共有する意義」、そして「文化財サポーターズ」への期待を語ってもらいました。
●共有する文化が生み出す「われわれ」意識
――文化っていうとどうも普段の生活では意識しない、空気のような感じがしてしまいます。文化財にしても旅先で訪れたりする程度なのですが、現代社会における文化、文化財の役割についてどうお考えでしょうか?
森田さん AI(人工知能)時代を迎えて社会は大きく変わりつつあります。便利で効率的になった一方で、一部では人々の不安も増大している気がしています。こうした中で、穏やかにしか変わらない基層文化の価値を再確認・評価すること、そして(変わるべきことは変えつつも)私たちが寄って立ってきた地盤を守ることにも意義があるはずです。
また、これまでは組織や地域などの集団に帰属することで保持されてきた「われわれ」意識が価値観の多様化やSNSの普及によって失われ、孤立・孤独感を抱く人が多くなっていることもあるのではないでしょうか。社内運動会が再評価されているとも聞きますが、「つながり」や「かかわり」による「われわれ」意識への志向が生まれている気がします。そうした「われわれ」意識を生み出すものが共有する文化であり、それを提供するのが地域文化や学校文化の機能ではないかと考えます。
『学校文化の源流を探る』をお読みいただいた教師の方から、「現在の差し迫った学校教育の諸課題への対応も、学校文化という視点でとらえると、少し肩の力もほぐれるのかな、一筋縄でいかなくてもいいのかな、などと感じられます」との感想をいただきました。空気のようかもしれませんが、文化には、実は人に対する力があることを伝えられて、うれしく思っています。
●「官民共創して文化を次世代に」と今年3月に発足
――著書のカバーにロゴがプリントされている「文化財サポーターズ」について教えてください。
森田さん いま文化財になっている「鳥獣戯画」(国宝、平安~鎌倉時代)も、能(室町時代)も、歌舞伎や人形浄瑠璃(江戸時代)も、開智学校などの明治の建築も、みんなその当時の先端を行く文化であり、それが脈々と受け継がれ、現代の漫画・アニメや舞台芸術、建築文化を生み出す素地になっています。現代の文化も累積し、いずれ将来、文化財になり、さらにその先の新しい文化を生み出す素地になっていくはずです。日本は、古代から現代までの様々な文化に彩られた世界有数の文化の国であり、文化がインバウンドやコンテンツ産業などわが国の成長分野を支えています。
このように歴史の知、文化の知の累積が文化財ですが、それを維持して次世代に継承していくには多くの費用がかかります。そのため、文化庁、公益財団法人「文化財保護・芸術研究助成財団」(故・平山郁夫氏が1988年に設立)、PROJECT_Vega(株式会社博報堂の官民共創推進組織)、READYFOR株式会社で立ち上げたのが「文化財サポーターズ」です。官民共創して文化財を財政的に支援するものです。文化財保存活用のためのコーディネーターの配置や、個人・企業からの寄付促進・助成事業などに取り組んでいます。ささやかですが、私も『学校文化~』の印税を寄付するなどしています。
●寄付募り、能登半島地震被災の重要文化財復興を支援
――具体的にはどうした活動をしているのですか?
森田さん 今年元日の能登半島地震で能登半島や周辺の文化財の多くが被害を受けました。そのため、「文化財サポーターズ」は「能登の文化を次の世代へ」としてクラウドファンディングで呼びかけ、事務局への直接寄付も含めて集まった約890万円を以下の4文化財の復興支援に充てるほか、さらなる協力を呼び掛けています〈下部に詳細〉。多くの方にこうした活動を知ってもらい、文化財への理解と支援の輪が広がることを願っています。
▽白山神社(石川県珠洲市、天井の一部や消防設備が損壊)国指定重要文化財=日本海側における中世の建築様式の流れを知るうえでも重要な遺構。
▽黒丸家住宅(同県珠洲市、主屋の柱の傾斜や軒丸瓦の落下など)国指定重要文化財=石川県最古の民家で、屋敷構えも良く残っている。
▽中谷家住宅(同県能登町、通用門や東塀が倒壊、主屋や土蔵などが傾く)国指定重要文化財=奥能登を代表する大型民家、黒と朱の漆で塗り分けた塗蔵は見応えがある。
▽旧田中家住宅(富山県射水市、土蔵の地盤の液状化、壁の崩落など)国登録有形文化財=網元をしていた旧家で、主屋のヒノキ総征材による式台玄関など贅(ぜい)が尽くされている。
〈詳細〉守り伝えられる文化を未来へ 令和6年能登半島地震文化財復興緊急支援(文化財保護・芸術研究助成財団 2024/12/02 公開) - クラウドファンディング READYFOR
◆『学校文化の源流を探る』(ISBN978-4-907717-14-8)は四六判、340ページ。11月3日(文化の日)に発行され、定価1800円(税別)です。